大学の学部を選ぶ際にはその学部でどのような授業が行われるのかということが、とても気になることでしょう。医学部の場合にも同様ですが、なかでも解剖という他の学部ではなかなかない実習が行われることから心配に思う方も多いかもしれません。そんな方の参考になるように医学部で行われる解剖の実習というのはどのようなものなのか、授業の内容や解剖学の難易度などについてご紹介していきます。
医学部では在学期間を通して人間の体について、様々な視点から学んでいくことになります。これを学ぶものを基礎医学と言いますが基礎医学の中にも生理学、薬理学、組織学など様々なものがありその1つが解剖学です。
基礎医学は必須科目となっていますので、解剖学も当然卒業するためには必須のものですし解剖実習も必ず行わなければなりません。
解剖学というのは身体の形状や構造を知るための学問で、医学部で学ぶのはその対象が人間である人体解剖学です。他の科目の基礎となる知識ですので、1年生から2年生のうちに学習するカリキュラムになっています。
臓器や血液を見ることが苦手な人も中にはいますし、実際の御遺体を解剖するということに抵抗があるという方もいるかもしれません。
しかし医師として治療を行っていくためには、人体の臓器や構造についてきちんと知っておくことは必ず必要です。そしてそれを教科書や写真だけでなく、実際に目で見ながら学ぶことが出来るということはとても貴重なことなのです。
では解剖学というのは医学部で学ぶその他の科目と比較して難しいものなのでしょうか?実習がある分ハードなイメージを持つ方も多いかもしれませんが、実際にも解剖学で単位を落としてしまう学生というのは少なくありません。
しかし実習が大変であるからということで単位を落としてしまうというよりは、実習の中間や終わりに行われる到達度をチェックするための筆記試験で基準に届かずに単位を落としてしまうことの方が多いです。
解剖学には、難しい専門用語が非常に多く出てきます。これまで接してきたことがない言葉ばかりですので、暗記することすらとても困難です。
そして言葉だけではイメージをすることが難しいため、実際に実習で見たり触れたりしたことと上手く結びつけていく必要があります。実習と座学を上手く両立させながら学習していかなければいけないところが解剖学の難しさになっているのです。
覚えなければいけないことの量も膨大で、参考書の厚さも他の科目とは比べものにならない程です。もちろんポイントを絞って勉強することは可能ですが、それでも最低限覚えなければならないものも多いため手を抜かずにきちんと学習をする必要があります。
医学部を卒業するためには必ずクリアしなければいけない解剖実習ですが、実際の授業はどのように進められていくのでしょうか?解剖実習の流れを見ていきましょう。
実習は、3から5名程度の少人数のグループに分かれて行われ、1つのグループに対して1人のご遺体が割り当てられます。ご遺体への礼節をわきまえて、その気持ちを伝えるためにもまずは献体の周囲を囲んで黙とうを行います。
そして人体を顎と上肢、胸と腹、下肢と骨盤、頭という4つの部分に区切って実際に解剖を行っていきます。1つ1つの部位ごとに丁寧に、先生の指導や解剖手順書に沿って解剖を進めながらじっくりと学んでいきます。
重要なことは筋肉や神経が実際にどのような位置にありどのような働きをしているのかを確認し、名前と結びつけていく同定を行うことです。また写真や図などではなく、実際のものを目にすることで各臓器の働きや造りを理解していきます。
この時に身体の構造を学んでいくことはもちろんですが、メスの使い方もこの解剖実習で初めて学ぶ大切な技術です。
全ての実習が終わったら、解剖室の清掃をして解剖した献体を棺の中に納めていきます。最後に棺の上に献体の名前を先生が読み上げて札を置き、再度黙とうを捧げて解剖実習は終了します。
人体の解剖実習を行うためには、献体の協力が必要不可欠です。献体とは解剖学の教育や研究に役立たせるため、無条件かつ無報酬で提供されたご遺体のことをいいます。
医学部の解剖学実習で使用されている献体は、全て個人の好意によって寄付されたご遺体です。生前に登録をすることができ、医学部のある大学や関連団体で募集がかけられています。
献体となるご遺体は、腐敗を防ぐために手足の血管から防腐剤となるホルマリンを注入して処理がされます。防腐剤の効果が出るまでには3か月から6か月程度の期間がかかりますので、専用の保管庫でお1人ずつ保管されます。
そして実際に実習が始まる前にはアルコール処理をして、ご遺体からホルマリンを取り除きます。これによって凝り固まってしまった身体を、メスが使用出来るようにある程度和らげていきます。
献体は医学の研究や教育に貢献したいという方の思いによって、提供されているものです。学生はその思いをしっかりと受け止め、きちんと感謝をして実習に取り組むということを忘れてはなりません。
解剖実習が終了すると、献体となったご遺体は火葬されることになります。そしてご遺族、先生、生徒が参列して1年に1度決められた日程で遺骨返還式が行われます。
この遺骨返還式の中で、火葬を終えた後の遺骨は全てご遺族のもとに還されます。医学の発展のために献体を申し出くれた故人への敬意と感謝の気持ちを表すとともに、ご遺族と向き合うための非常に重要な式典です。
そして命の尊さを感じることにより、医師としての自覚や責任感を芽生えさせます。そのため遺骨返還式は解剖実習を行うにあたって、欠かすことが出来ない大切なものなのです。
医学部に進学する場合、解剖実習は必須の科目であり卒業するためには必ず取り組まなければならないものです。
解剖実習自体は実際のご遺体を使用して行われるため、血や臓器を見ることが苦手な人にとっては少しハードに感じるかもしれません。
しかし解剖学で単位を落としてしまう生徒のほとんどは、実習というよりはその達成度を計るために行われる筆記試験の難易度が高く、そのため進級ができないということが多いようです。
解剖学では普段聞きなれない専門用語が多いですし、暗記しなければならないものの量が非常に多いために学生にとっては負担になってしまいます。
ですが実習を行うことによって、臓器や筋肉などを実際に目で見ることでイメージがしやすくなり理解をより深めることが出来ます。
その解剖実習を行うにあたっては、個人の好意によって提供された献体が必要不可欠です。実習を行う際には故人やそのご遺族への感謝の気持ちを忘れることなく、医療人として命に対しての尊厳や敬意を表し、真摯に取り組む必要があります。