目指す大学を決める際に、偏差値を一つの基準として、自分に手の届くできる限り高いレベルの所選ぶ方が多いでしょう。大学生活は新生活の始まりなので、校風やエリアで決める方もいます。しかし、医学部の場合は、それらに加え序列を気にされる方も多いです。進学した医学部の格やヒエラルキーの高さで将来の立場や収入などが決まるのであれば、気にすべき項目です。実際には、将来に何か影響が出るのでしょうか。
医学部の序列とは、言い換えれば格付け、ヒエラルキー、ブランド力です。偏差値が高ければ、序列が高いわけではないのが医学部です。では、序列とはどのようにして決まっているのでしょうか。
最大のポイントは、医学部の歴史です。設立が古く、歴史のあるほど序列が高くなっています。その理由は、長年医療業界や研究などにおいて貢献してきたからです。また、歴史があるということは、その分全国に関連施設を多く持っている場合が多く、将来の就職、昇進に有利と言えます。
医学部の序列が高い順に、その特徴をお伝えします。詳しい区分を知れば、なぜこのような序列となっているのかが理解できます。
区分 | 大学名・専門学校名 |
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旧帝国大学医学部 | 北海道大学、東北大学、東京大学、名古屋大学、京都大学、大阪大学、九州大学 |
私立医大御三家(私立旧制医科大学) | 慶應義塾大学医学部、東京慈恵会医科大学、日本医科大学 |
旧制六医科大学(旧六) | 千葉大学、新潟大学、金沢大学、岡山大学、長崎大学、熊本大学 |
新制八医科大学(新八) | 東京医科歯科大学、広島大学、鹿児島大学、弘前大学、群馬大学、信州大学、鳥取大学、徳島大学 |
旧設公立医科大学(旧設) | 神戸大学、横浜市立大学、名古屋市立大学、岐阜大学、三重大学、札幌医科大学、福島県立医科大学 山口大学、大阪市立大学、奈良県立医科大学、和歌山県立医科大学 |
旧設私立医科大学 | 順天堂大学、昭和大学、東京医科大学、大阪医科大学、久留米大学、岩手医科大学、関西医科大学 東京女子医科大学、東邦大学 |
新設医大(国公立) | 旭川医科大学、秋田大学、山形大学、筑波大学、富山大学、福井大学、山梨大学、 浜松医科大学、滋賀医科大学、島根大学、香川大学、愛媛大学、高知大学、佐賀大学、 大分大学、宮崎大学、琉球大学、防衛医科大学校 |
新設医大(私立) | 北里大学、杏林大学、帝京大学、東海大学、聖マリアンナ医科大学、埼玉医科大学、 自治医科大学、独協医科大学、金沢医科大学、愛知医科大学、藤田保健衛生大学、 近畿大学、兵庫医科大学、川崎医科大学、福岡大学、産業医科大学 |
2000年以降の新設医大(私立) | 東北医科薬科大学、国際医療福祉大学 |
「旧帝国大学医学部」は、最も序列が高い大学です。明治時代から昭和までの間に、国の最高学府として全国各地に設置されたため、歴史ある大学です。医学部はもちろん、他学部に関しても序列が高いため、受験での難易度も高いです。医学部は研究や教育に熱心で、教授も数多く輩出しています。
私立で最も序列が高いのが、「私立医大御三家」です。大正時代に臨床医養成のために設立されました。地方国公立大学医学部よりも受験難易度が高いです。教授の半数以上は自校出身者です。
次に「旧制六医科大学(旧六)」です。もともと医科専門学校だったのですが、大正10年~14年に医科大学になりました。当初、ここの教授たちは旧帝国大学の方が多かったのですが、現在は自校出身の教授が多くなっています。
「新制八医科大学(新八)」は、1930年代の日中戦争の際に、軍隊における医師不足を解消させるために設立されました。臨床医養成が目的でしたが、戦後に医科大学へと変わりました。他高出身の教授も多いです。
「旧設公立医科大学(旧設)」は、元は公立大学として設置された大学で、設立当時は旧帝大学等を卒業した医師達により教育、運営が行われていましたが、現在では自校出身の方達が中心となっているようです。
「旧設私立医科大学」は、戦後に「私立御三家」に続いて誕生しました。戦前に臨床医養成のために設立したことから、現在も臨床医育成に定評があります。教授の半数程が自校出身者です。中には、順天堂大学のように「私立御三家」に匹敵するほど難易度が高くなってきている大学もあります。
「新設医大(国立)」は1970年代に開設された大学です。高度経済成長、各地域の医師不足の解消のため、施策により「1県1医科大」になるようにしたのです。また、1973年に医師の幹部自衛官養成のための防衛医科大学ができました。教授は他校出身者が多いです。
「新設医大(私立)」も、国立の「1県1医科大学」に伴ない1970年代に開設されました。病院が母体となっている杏林大学、全国都道府県の出資により開設された自治医科大学、産業医養成専門の産業医科大学など、さまざまな大学があります。自校出身の教授は少ないです。
序列が高い医学部は、歴史や実績があるので、信頼できます。したがって、序列が高ければ高いほど、受験難易度が高く、偏差値が高いのではないかと考えるかもしれません。しかし、実際には序列が高いから、偏差値も高いとは限りません。
近年偏差値が高い大学として、東京医科歯科大学や筑波大学などが上げられます。序列では下のほうですが、首都圏近郊や都市部にキャンパスがある大学は偏差値が高くなる傾向にあります。序列が下のほうだからといって、偏差値が低く、入りやすいというわけではないので、志望校選びでは注意が必要です。
また、「旧医科大学」の地方国公立大学の場合、歴史や実績はありますが、偏差値としては中堅なので、最難関を避けたい方にはおすすめです。
そして、都市部に対して、地方国公立大学の医学部を比較する際には、序列が偏差値に影響していることが多いです。例えば同じ九州内の医学部を比較すると、序列が高い「旧医科大学」の偏差値が高く、次いで、「旧医科専門学校」、「新設医大」と偏差値が低くなる傾向にあります。
なお、偏差値の高い大学についてはこちらも参考にしてください。
序列が高ければ、よりよい収入が得られるかと言えば、そうではありません。医師として働く場合、その地域、病院、診療科によって収入が変わります。出身大学の序列が収入へ影響があるわけではありません。
また、開業ができたら、最も高い収入を得られることになります。開業をするのに、序列など関係ないのは言うまでもありません。
では、卒業後のキャリアを考えると、序列が高い大学を目指したほうが有利なのでしょうか。
医学部を目指す方の中には、医師として現場で働きたい方だけでなく、教授になりたい、大学病院を始めとする医療機関で要職に就きたいと願う方もいらっしゃるでしょう。その場合は、序列も多少は気にしたほうがよいかもしれません。なぜなら、教授出身者数、関連病院や医療機関の要職者は、全国的に旧帝国大学出身者が多いのが事実だからです。自校出身者が優遇されるなど、多少の影響は出てくるでしょう。
しかし、序列が低いから出世できないわけではありません。出世で最も影響があるのは、研究論文や臨床試験、コネクションなどです。学歴にあぐらをかくのではなく、どんな場所においても必死に取り組む姿勢が、キャリアへとつながっていくでしょう。
将来的には、序列の高い大学病院に就職したいため、序列の高い医学部に入らなければならないと考えている方もいらっしゃるかもしれません。確かに、在籍する大学の関連病院では研修等を行なえる機会が多いでしょう。
しかし、2004年度からは「マッチング制度」というものが始まりました。新臨床医研修制度により、研修医が全国の病院で希望する場所での研修が行なえるようになったのです。もちろん、人気のある病院には希望通りに行けるとは限りませんが、自分の努力次第で希望する病院での研修にチャレンジできるということです。
そして、医局によっては伝統的にこの大学出身者しかとらない、というケースがあるのも事実です。どうしても将来その医局を目指したいなら気にする必要がありますが、その大学に進んだからといって、必ず目指す医局に入れる保証はありません。
したがって、特別なこだわりがない方は、格付けにとらわれず、確実に入学できる医学部に入り、将来のために努力するほうがよいのではないでしょうか。格付けを気にし過ぎて、自分の力以上の医学部を受験して残念な結果になるよりかは、よい将来になるはずです。
現在の日本では全国的に医師不足の状況です。医学部を卒業したのに、序列が低いから就職できないということはないでしょう。
医学部はその歴史の長さによって序列が決まります。序列が高いほど、実績もあり、両親や祖父母世代の認知度も高く、信頼できる大学です。序列が高いほど、自校出身者の教授が多い傾向にあります。
しかし、序列が高くなくても、人気があり、偏差値の高い大学もあります。したがって、序列の高い大学を目指すほうがよいというわけではありません。医学部の序列は、一つの参考程度に見てみるとよいでしょう。
医学部というのは数年浪人して入る方も多いほど、難関です。序列にこだわらず、自分の実力に合った医学部に入学することを目標にするのが大切です。